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「どこで過ごすか」も、新しい健康習慣。

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健康のために何かを始めようと思ったとき、何を思い浮かべるでしょうか。

食事を見直す。
運動する。
睡眠を整える。
ストレスをためないようにする。

どれも、心と体の健康を考えるうえで大切なことです。

では、もうひとつ。

「どこで過ごすか」について、考えたことはあるでしょうか。

私たちは「何を食べるか」「どれくらい動くか」「どう眠るか」には気を配っていても、その一日をどんな環境で過ごしているかについては、意外と意識していないものです。

しかし近年、健康を考えるうえで「環境」は無視できない要素のひとつとして研究されています。

「場所」は、私たちの過ごし方に影響する

たとえば、自然の多い場所へ出かけた日。

いつもより歩いていたり、空を眺めていたり、風の音や木々の香りに気づいたり。

旅館に泊まれば、ゆっくり湯船につかり、食事を時間をかけて味わい、普段より早く布団に入ることもあるでしょう。

特別に「健康的な一日にしよう」と頑張っているわけではありません。

場所が変わったことで、結果として過ごし方も変わっている。

ここに、「環境」から健康を考える面白さがあります。

WHO(世界保健機関)は、都市の緑地が健康やウェルビーイングにつながる経路として、心理的なリラックスやストレスの軽減、身体活動の促進、人との交流などを挙げています。

また、WHOが2021年にまとめた報告書では、緑地や水辺とメンタルヘルスとの間には全体として良好な関連がみられる一方、「どのような自然環境が、誰にとっても最も良い」と一律に決められるものではないことも示されています。

つまり、単純に「自然の中に行けば健康になる」という話ではありません。

緑地とメンタルヘルスを結ぶ経路について調べたシステマティックレビューでも、身体活動やストレスなどが関係している可能性が示される一方、因果関係については今後さらに研究が必要とされています。

重要なのは、特定の場所そのものに特別な「健康効果」があると考えることではなく、その環境によって、私たちの行動や感覚、時間の使い方がどう変わるのかを見ることではないでしょうか。

健康習慣に「環境」という視点をプラスする

健康づくりでは、どうしても本人の努力に注目しがちです。

運動しましょう。
食生活を改善しましょう。
しっかり眠りましょう。

もちろん、どれも大切です。

ただ、私たちの行動は意志だけで決まるものではありません。

歩きたくなる道があれば自然と歩く。
静かな場所ならスマートフォンを置きたくなる。
目の前に自然があれば、少し立ち止まって眺めたくなる。

反対に、仕事の道具や家事が目に入る場所では、「休もう」と思っていても、なかなか気持ちが切り替わらないこともあります。

だからこそ、

自分を変えることだけでなく、自分が過ごす環境にも目を向ける。

食事、運動、睡眠、心のケア。

そこに「環境」という視点をプラスすることも、これからの健康づくりの一つの考え方だと、日本統合医学協会では考えています。

旅にも「どう過ごせるか」という選び方を

この考え方をもう少し広げると、旅の選び方も変わってきます。

旅行先を選ぶとき、観光地、料理、温泉、景色、宿など、さまざまな条件があります。

そこにもうひとつ、

「そこで、自分はどんな時間を過ごせるだろう?」

という基準を加えてみる。

自然の中を歩ける。
土地の食をゆっくり味わえる。
温泉につかって体を休められる。
静かな場所で眠れる。
普段とは違う体験に触れられる。

休暇と心身のウェルビーイングとの関係についても研究が進んでいます。

2009年に発表されたメタ分析では、休暇によって健康やウェルビーイングが改善する傾向が確認された一方、その効果は仕事へ戻った後、比較的早く薄れる可能性が報告されました。

その後研究が蓄積され、2025年に32研究・256の効果量を統合した新たなメタ分析では、休暇が従業員のウェルビーイングに与える効果は、従来考えられていたより大きく、効果も急速には失われない可能性が報告されています。
また、休暇中に仕事から心理的に離れることや、身体活動を行うことがウェルビーイングと関連する可能性も示されました。

ただし、この研究でも「自宅を離れて旅行すること自体が重要なのか」については明確になっていません。

ここは、とても興味深いところです。

単に「旅行に行けば健康になる」のではなく、日常とは違う環境で、どのような時間を過ごすのか。

そして、そこで得た心地よい過ごし方を、どう日常へ持ち帰るのか。

そこにリトリートの価値の一つがあるのではないでしょうか。

非日常で終わらせず、日常につなげる

旅先で、

「朝、外を歩くと気持ちがよかった」

「スマートフォンを見ない時間が意外と心地よかった」

「食事をゆっくり味わう時間がよかった」

そんな小さな気づきがあったとします。

毎週旅行することは難しくても、その一部なら普段の生活へ持ち帰れるかもしれません。

朝に10分だけ歩く。
食事中はスマートフォンを置く。
休日には少し自然のある場所へ出かける。

非日常で終わらせず、日常につなげる。

これは、日本統合医学協会がリトリートを考えるうえで大切にしたい視点です。

日本には、まだ知らない「過ごし方」がある

山や森、海や湖、温泉、地域の食文化、寺社、歴史ある町並み。

日本各地には、その土地だからこそできる過ごし方があります。

日本統合医学協会では現在、こうした場所や体験を単なる観光情報としてではなく、「そこで心と体のために、どんな時間を過ごせるか」という視点から見つけ、紹介していく取り組み「THE JAPANESE RETREAT」を進めています。

有名な場所だからでも、高級な宿だからでもありません。

食べること。
動くこと。
眠ること。
心を休めること。
自然に触れること。

そうしたさまざまな要素を通して、自分自身の心と体に少し目を向けられる場所を探していきたいと考えています。

健康のために「何をするか」を考える。

そして、ときには、

「どこで過ごすか」も考えてみる。

それもまた、これからの健康習慣の一つになるのではないでしょうか。

参考文献・出典

  1. World Health Organization Regional Office for Europe. Urban green spaces and health. 2016.
    都市の緑地と健康について、心理的リラックスやストレス軽減、身体活動、社会的交流など、健康につながる複数の経路を整理したWHO報告書。
  2. World Health Organization Regional Office for Europe. Green and blue spaces and mental health: new evidence and perspectives for action. 2021.
    緑地・水辺とメンタルヘルスに関するシステマティックレビュー等をもとにしたWHO報告書。
  3. Zhang R, Zhang CQ, Rhodes RE. The pathways linking objectively-measured greenspace exposure and mental health: A systematic review of observational studies. Environmental Research. 2021;198:111233.
    緑地への曝露とメンタルヘルスを結ぶ経路について、身体活動、ストレス、環境要因などを検討したシステマティックレビュー。
  4. Grant RS, Buchanan BE, Shockley KM. I need a vacation: A meta-analysis of vacation and employee well-being. Journal of Applied Psychology. 2025;110(7):887-905.
    32
    研究・256の効果量を統合し、休暇と従業員のウェルビーイングとの関係を検討したメタ分析。
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